最後の証人Page.4


 土曜日の朝、遅く目覚めた。
「だって、お父さんと、お母さんは、悪くないよ、みんなあたしが悪いんだ・・」っていうYちゃんの声で。
 あんまりアパートの中で腐ってるのも何だから、ご飯食べに行こうよ、って誘い出した。正直な所、あたしは、この日用事が入っていなくて、付き合おうと思えば一日付き合えたのだが、どうも、自分の古傷をえぐられてしまいそうで、気が進まなかった。
 まあ、いいよ、今日は、あたしの出来る限りで、彼女と付き合えたらいいさ。
・・おのおのそれぞれに時間を抱えている。あたしは、あたしなりに。そして彼女は彼女なりに・・。今回は、あたし、自分が出来るだけは彼女と接していられたし、それなりの時間は過ごせた筈だろう・・と、あたしは自分に言い聞かせていた。


 あたしのアパートから、五反田の駅までは、歩いて15分位。国道一号線をまっすぐ歩いていくと駅までたどり着く。Yちゃんは、途中で植え込みの花を詰んだり、道沿いに植えてある柳の木と戯れたり、それは子供みたいにはしゃいでいた。
 けど、事あるが毎に、「何もしてあげられなくて、ごめんね」と、つぶやいていた。
「何が食べたい?おごってあげるよ。」という問いに、色々言うことがころころと変わっていた。そして、その都度、「ごめんね、あたし・・勝手で・・」と、泣き出しそうな顔をして答えた。しばらく歩き回り、あたし達は駅前のプロントに入る。
スパゲティーセットを頼む。Yちゃんは結局何も頼まずに、アイスコーヒーだけを頼んだ。昨日から食べてないみたいだから、食べないと駄目だよと笑ったら、あたしのセットについていたサラダをつまみ始めた。・・ほら、スパゲティーも、いいからたべなよ、と勧めた。2時間くらい居座って話をした。でも、昨日と同じ繰り返しで、あたしは少し疲れてきていた。
「今日、美術館行かない?絵を見たい」その問いに、あたしは丁寧に断った。
「ごめんね、あたしね、ちょっとこれから用事があるんだ・・2時半に、待ち合わせ・・・。」嘘をついた。
 あたしは自分の鞄からメモを取り出して、自分の電話番号を書いた。
「これ、あたしんちの電話番号だからさ、また、今度ゆっくり逢おうよ。Yちゃんも、電話番号教えてよ。」彼女は電話番号を教えてくれなかった。
「じゃあ、あたし、お金ないから、ここでお水飲んでる・・」
「わかった。帰りの電車賃はあるの?」
「何とかある・・」
「そっか、じゃ、渋谷で乗り換えだから、気をつけて帰ってね・・・。また、今度、元気に逢おうね。それじゃ、あたしはもう時間だから、行くわ・・。」
まるで逃げ出すように、席を立った。Yちゃんは、「本当にありがとね。何もしてあげられなくて、ごめんね」と、又言った。


 駅の横の公衆電話で、あたしはMちゃんに電話をした。自分としては、もう、彼女と接するのは限界にきていたが、やっぱり、悪い予感がしていたのだ。
Mちゃんは運良く家にいて、事の経緯を全部話した。
「でも、Yちゃん、服装が変だっていったって、昔からそれはやってたし・・発言の端々とかもねぇ、昔からそれは言ってたよ・・。それは、心配しすぎだって・・・。」Mちゃんは笑って答えた。
「でも、違うよ・・あたし、すごいカンは強い方なんだけど・・すごく嫌な予感がするんだ。あたし、ちょっと耐えられなくて、今は逃げ出してきたけど、Yちゃんの実家の連絡先、判らない?このままYちゃんを東京においておくの、すっごくまずい気がするよ。あたし、じかに話すから、何とか、判らない?」
「そんなにひどいの?」
「だってさぁ、あたしと話してる間に、ずーっと、ここにはいない誰か他の人と、話してるんだよ?」
「でもねえ、それは、あたし達から見たら変かもしれないけど、Yちゃんにとっては、自然な事になっちゃってるんだろうから、一概に、Yちゃんの事決めつけられないからねぇ・・。」あの子は、昔はそうじゃなかったっていうのはよく憶えてる。だけど、どれが正しいのか、間違いなのか、あたし達には言える術がない。
「わかった・・じゃ、次に、新宿で会ったら、どんな様子だったか、話すから・・。とりあえず、今日はこんな感じだったけど、なるべく、あたしも、時間をかけて色々と話を聞いてあげるように努力するから・・」と、電話をおいた。


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